苦しみを理解するターミナルケア

ターミナルケアにおいて、看護師が患者のそばにいれば、その人の苦しみを理解できるかといえば、苦しみに気づくことは簡単でも、理解することはとても難しいことです。なぜならば、苦しんでいる人は、誰にでも苦しみを打ち明けるのではなく、わかってくれる人にしか打ち明けないからです。ですから、看護師は、まずは患者との信頼関係を構築することが大切になります。
では、信頼関係がすべてを解決してくれるかといえば、そうではありません。何気ない言葉や態度に含まれる苦しみに気づくことは、容易ではないからです。 たとえば、1人でトイレに行きたいという希望に対して、実際には1人でトイレに行けないという現実を聞き、家族に迷惑をかけたくないという希望に対して、実際に迷惑をかけてしまうという現実があったとして、この希望と現実の開きこそが苦しみです。
このように捉えると、苦しみとは身体的な痛みや経済的な困窮だけではなく、何気ない患者の言葉や態度に苦しみのメッセージが隠れていることに気づけます。また、苦しみに気づいたなら、解決できる、あるいは応えることができる苦しみと、そうではない苦しみが出てきますので、解決できるものに取り組んでいきましょう。
医療職でも介護職でも、相手の苦しみに気づき、力になるための知識や技術、態度を修練していくことが必要です。しかし、どれほど誠実に患者の支援を行っても、歩けている人も歩けなくなり、大切な家族ともお別れをしなくてはなりません。家族に迷惑をかけたくないという気持ちも、本人の苦しみにつながります。このような解決できない問題に対しても、援助を言葉にすることがターミナルケアでは必要となるのです。